三桃シ倒語の日記

お前の枠にはまってたまるか

ぼっちバー

モノを食べる時はね 誰にも邪魔されず 自由で なんというか救われてなきゃあダメなんだ

独りで静かで豊かで……

 

とある公立図書館に実習に行っていた頃、最寄駅で『孤独のグルメ』の文庫版を買って読んで、印象に残った台詞だ。この台詞に井之頭五郎の閑寂さが凝縮されている。直後にかの有名なアームロックの場面があるので、なおさら印象に残りやすい。

 

私はよく独りで食べる。友達が少ないのも理由の一つだが、独りで食べるのが好きだし、食べながら誰かと喋るのは落ち着かないからだ。おおかたのチェーンの飲食店は独りで入って食べた。マクドナルドにすら独りで入れない人もいるそうだが、何か気になるメニューが登場する度に人を誘って入っているのだろうか。それはそれで面倒な気がする。

しかし、私にはどうしても独りで入れない店があった。

個人経営のバーである。

どうもガヤガヤとして入りにくい印象があるし、宅飲みのほうがコストパフォーマンスが良いとも思っている。某ブリティッシュバーのチェーン店には入ったことがあるが、たまには別の趣向のバーに入りたい。

 

この度、意を決して、ぼっちバーをキメることにした。

幸い、自宅の近くにはバーが多い。時間をかけてうろうろと歩いて、ここだ、と思ったバーに入ることにした。しかし、なかなか入るバーが見つからない。

人が混んでいる店、よく聞くが食べたことのないメニューを提供している店、店主と思しき人物が独りで佇んでいる店などなど、入れない理由は様々だ。

 

迷いに迷って入った店は、ジャーマンバーだった。

「いらっしゃいませ。何名様ですか」

慣れない店の雰囲気にそわそわしつつ、いつも通り人差し指をピンと立て、カウンターに案内される。

ズラリとぶら下がったワイングラスがキラキラと宝石のように輝き、名だたるビールの数々が堂々と並んでいた。

 

注文したのは、サングリアとジャーマンポテト。

サングリアは、いつも近所のスーパーで買っている瓶入りのサングリアよりもアルコール度数が高いのが明らかで、安い酒に慣れた体では酔いの回りが早かった。普段オーソドックスな円柱のグラスで酒を嗜んでいる為、丸いワイングラスを持つ自分の手が覚束なかった。

ジャーマンポテトは、カリカリに揚げたポテトとベーコンの食感が小気味好く、散りばめられた粗挽きの黒胡椒がよく利いている。

無心に飲み、食べ、酔って、帰宅。

強い酒と旨い肴。ジュースのような酒を、ありあわせのもので作ったいまいちなつまみを肴にして渋々飲む宅飲みとは全く異なる世界だった。 

独りで食べる事そのものは自分では当たり前だが、入る店が違えばここまで緊張した。

また、あのバーに行きたい。